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ネットショップ開業の手順:先に済ませる手続きと、後から選べること

「ネットショップ 開業」で検索して出てくる上位の記事は、タイトルがほぼ同じ形をしています。開業方法、開業の手順7つ、開業の5ステップ、おすすめサービス比較6選。そしてどれも、店を作るサービスや送るサービスを売っている会社のサイトに載っています。 STORES、BASE、Square、楽天、MakeShop、日本郵便。順位の上から9件がそうでした。

彼らが書いているのは、店を開くところまでです。そして店を開くことは、あとから取り消せます。契約は解約でき、商品ページは消せます。取り消しにくいのは別のところにあります。期限の決まった届出と、お金を出して仕入れた在庫です。

この記事は、順番を入れ替えます。サービスの比較は最後にして、先に期限のあるものと自分が何を背負うのかを片付けます。売り場選びを最初に置かないのは、それが一番安く、一番やり直しが効く決定だからです。

数字と期限は、国税庁、e-Gov 法令検索、消費者庁、警視庁のページから直接取りました。読んだ日は2026年10月6日です。

先に、よくある誤解を1つ外す

開業届について、「開業から1ヶ月以内に出さなければならない」 という説明を見かけます。条文はそうなっていません。

所得税法第229条(開業等の届出)は、届出書を「その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに」提出すると定めています。国税庁の手続案内(A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続)も、提出時期を「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください」と書いています。

「一月以内」という文言が出てくるのは第230条で、これは給与等の支払をする事務所を開設したときの届出です。人を雇って給与を払う場合の、別の手続きです。

ではなぜ早く出すよう勧められるのか。理由はあります。期限が短い書類は別にあり、それが青色申告承認申請書です。 手順3で扱います。

手順1: 何を売るかを、売れた実績で決める

売り場より先に決めるのは商品です。順番を逆にすると、作った店に並べるものを探すことになります。

ここで見てはいけないのが出品価格です。出品価格は売り手がつけた希望であって、その値段で売れた証拠ではありません。半年動いていない商品にも価格はついています。

判断に使えるのは2つだけです。

  • 実際に売れた価格
  • その価格で、どれくらいの頻度で売れているか

国内の売り場で売るなら、その売り場の販売済みデータを見ます。メルカリならメルカリの検索で、Amazon.co.jp なら Amazon.co.jp で確かめます。仕入れそのものの進め方はせどりの仕入れ先の選び方の記事にまとめてあります。

海外の買い手に売ると決めたなら、見るのは売り先の国の相場です。日本国内でいくらで売れているかは関係ありません。

ZIK AnalyticsのeBay Category Research Toolの画面。いま需要のあるeBayのニッチが売上額の順に並び、選んだニッチについて出品数、そのうち売れた出品の割合、そしてそのニッチの売上をどのセラーがどれだけ占めているかが表示される。アプリの表示は英語で、例として出ているのはeBay米国マーケットプレイスのデータ

ZIK Analyticsが扱っているのはこの「売れた」側のデータで、対象は eBay を中心とした海外のマーケットプレイスです。日本国内だけで売るなら、使うのはその売り場自身の販売済みデータのほうです。 海外に売ることを選択肢に入れるかどうかは越境ECとは何かの記事で整理しています。

この段階で、もう1つ決まるものがあります。中古品を扱うかどうかです。これは手順4の許可に直結します。

手順2: 自分が「販売業者」になることを確認する

ここが、売り場を売っている会社の記事にほとんど書かれていない部分です。

特定商取引法で「通信販売」とは、事業者がインターネット等で広告し、郵便や電話、インターネット等の通信手段で申込みを受ける取引を指します。問題は「事業者」の範囲です。消費者庁の特定商取引法ガイドは、業として営むとは「営利の意思を持って、反復継続して取引を行うこと」だとしたうえで、この要件に該当すれば個人でも販売業者になると明記しています。

会社でなくても、法人登記をしていなくても、利益を出すつもりで繰り返し売れば販売業者です。 不要品を一度だけ売る場合とは扱いが変わります。そして販売業者になると、広告に表示しなければならない事項が法第11条で決まります。主なものは、販売価格と送料、代金の支払時期と方法、商品の引渡時期、返品特約を含む申込みの撤回・解除に関する事項、そして事業者の氏名・住所・電話番号です。項目ごとの中身はAmazonの出品方法の記事に一覧があるので、売り場をAmazonにするならそちらも読んでください。

この記事で扱うのは、その一覧の次にある問題です。どれを省略できて、どれを省略できないのか。

住所と電話番号を出さずに済む条文上の方法

個人で始める人が最初に止まるのがここです。自宅の住所と電話番号を店のページに載せるのか、という問題です。

条文に逃げ道があります。 法第11条のただし書きは、消費者からの請求によってこれらの事項を記載した書面(インターネット通信販売では電子メールでもよい)を「遅滞なく」提供することを広告に表示し、かつ実際に請求があったときに遅滞なく提供できる措置を講じている場合に、一部の表示事項を省略できるとしています。

ただし何でも省略できるわけではありません。 省略の可否は事項ごとに決まっていて、分かれ方はこうです。

表示事項但し書きで省略
氏名(名称)・住所・電話番号できる
代金の支払方法できる
返品に関する事項(可否・期間・送料負担)できない
申込みの期間に関する定めできない
販売数量の制限など特別の販売条件できない
ソフトウェアの動作環境できない
電子メール広告を送る場合のメールアドレスできない

出典は消費者庁の特定商取引法ガイドの「広告の表示事項を省略できる場合」の表です。読み方の要点は1つで、省略できないのは「買う前に知らないと困ること」のほうだということです。自分が誰かは請求に応じて答えればよく、返品できるかどうかは最初から書いておけ、という線引きになっています。

さらに、インターネット通販では最終確認画面にも分量・価格・支払時期と方法・引渡時期・申込期間・撤回や解除に関する事項を表示することが定められています(法第12条の6、法第15条の3ただし書、省令第44条)。カートの最後の画面です。

もう1つ、集客を始める前に知っておく規制があります。承諾していない相手への電子メール広告は原則禁止です(法第12条の3、オプトイン規制)。承諾や請求を受けた場合は、最後に電子メール広告を送信した日から3年間、その記録を保存する必要があります。つまりメールで売ろうとするなら、先に承諾を取る仕組みと、取った記録を残す仕組みの両方が要ります。

手順3: 開業届と青色申告承認申請書を出す

2枚の書類を税務署に出します。どちらも無料ですが、期限の性質がまったく違います。

書類期限根拠
個人事業の開業・廃業等届出書その年分の確定申告期限まで所得税法第229条
青色申告承認申請書3月15日まで。1月16日以後に開始したときは開始日から2ヶ月以内所得税法第144条

所得税法第144条の条文はこうです。「その年三月十五日まで(その年一月十六日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から二月以内)に、当該業務に係る所得の種類その他財務省令で定める事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない」。

つまり、4月1日にネットショップを始めた人は、6月1日までに青色申告承認申請書を出さないと、その年は青色申告ができません。 開業届のほうは翌年の確定申告期限まで待てます。期限の数え方が違う2枚なので、順番としては同じ日にまとめて出すのが一番簡単です。

提出はe-Taxソフトからの電子申告が案内されていますが、書面を作成して持参または送付することもできます。窓口に行く場合、国税庁は令和8年10月1日から全ての税務署で総合窓口の受付時間を原則として午前9時から午後3時までとしています。

青色申告承認申請書を逃すといくら損をするか

青色申告特別控除は、所得金額から55万円(一定の要件を満たす場合は65万円)または10万円を控除する制度です。

55万円の控除を受ける要件は、事業を営んでいること、取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること、そして記帳に基づいて作成した貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付し、確定申告期限(翌年3月15日)までに提出することです。65万円にするには、さらに優良な電子帳簿による電子帳簿保存を行うか、確定申告書・貸借対照表・損益計算書等を提出期限までにe-Taxで送信するかのどちらかが要ります。

実際の金額を出してみます。控除を使わなかった場合の課税される所得金額が195万円以下の人を想定します。国税庁の所得税の速算表では、課税される所得金額1,000円から1,949,000円までの税率は5%、控除額は0円なので、控除を使っても使わなくてもこの人は同じ税率の帯に収まります。

  • 65万円の控除が使える場合と使えない場合で、課税される所得金額の差は650,000円
  • 所得税だけで 650,000円 × 5% = 32,500円

これは所得税だけの数字です。事業所得は住民税の計算にも使われるため、実際の差はこれより大きくなります。申請書1枚を2ヶ月以内に出すかどうかで、初年度にこれだけ動きます。 開業届の期限より、こちらを先に確認してください。

副業として始める場合に確定申告が必要になる所得のラインや、本業との関係は物販の副業と古物商許可の記事で扱っています。

手順4: 中古品を扱うなら、古物商許可を取る

手順1で「中古品を扱う」を選んだ人だけの手順です。新品だけを仕入れて売るなら飛ばせます。

古物を買い取って売る営業には、古物営業法に基づく許可が要ります。注意点は、「古物」が中古品だけを指す言葉ではないことです。転売するために仕入れた新品も、多くの場合この定義に入ります。該当するかどうかの判断は物販の副業と古物商許可の記事で詳しく扱っています。

警視庁の古物商許可申請のページによると、手数料は19,000円です。個人で申請する場合の必要書類は次のとおりです。

  • 許可申請書(古物営業法施行規則別記様式第1号)
  • 略歴書(本人と営業所の管理者のもの)
  • 本籍(外国人の方は国籍等)が記載された住民票の写し
  • 誓約書
  • 身分証明書(本籍地のある市区町村から交付を受けます)
  • URLの使用権限があることを疎明する資料(該当する営業形態のみ)

最後の1つが、ネットショップに特有の書類です。店をインターネット上に持つ場合に求められます。ドメインやショップのURLを自分が使う権限を持っていることを示す資料で、これは店を作ってからでないと用意できません。許可の申請と売り場の準備は、この1点で順番がつながります。

また、古物商は営業所ごとに管理者を1人選任しなければなりません(古物営業法第13条第1項)。1人で始めるなら自分が管理者です。問合せ先は営業所を管轄する警察署の防犯係です。

戻らない費用という観点では、この19,000円が開業手続きの中で唯一まとまった実費です。住民票の写しと身分証明書の取得費も加わります。

手順5: 最後に、売り場を決める

ここまで済ませてから売り場を選びます。この決定を最後に置いたのは、一番やり直しが効くからです。 契約は解約でき、商品データは移せます。

選択肢は大きく2つです。

  • 自分の店を作る(ASP型)。BASE、STORES、Shopify、MakeShop など。デザインと価格を自分で決められる代わりに、買い手は自分で集めます。
  • モールに出す。Amazon.co.jp、楽天市場など。買い手はモールが連れてきて、売れたときに販売手数料を取ります。

どちらを選ぶかの考え方、自社ECとモールで何が自分の手元に残るのかはD2Cブランドとは何かの記事で整理しています。Shopify そのものの仕組みはShopifyとは何かの記事にまとめてあります。

この記事では個別のサービスを順位づけしません。 料金は改定されるので、ここに書いた瞬間から古くなります。冒頭で見たとおり、上位に出てくる比較記事はサービスを売っている側のサイトに載っているものが多く、「おすすめ6選」を自社サイトで出している会社もあります。この記事が渡すのは、どの比較表を読むときにも使える費用の構造です。料金は必ず次の3つに分かれます。

  1. 初期費用。契約時に一度だけかかります。
  2. 月額費用。売れても売れなくても固定でかかります。
  3. 決済手数料。売れた分だけ、売上に比例してかかります。

比較するときは、この3つを自分の見込み月商に当てはめて合計してください。月額が0円でも決済手数料の率が高ければ、売れるほど高くつきます。逆も同じです。どの月商で逆転するかは、サービスの組み合わせごとに変わります。 その計算をするには手順1で扱う商品と価格が決まっている必要があり、だからこの順番になっています。各サービスの現在の金額と料率は、そのサービス自身の料金ページで確認してください。

なお、在庫を持たずに注文を受けてから仕入れる形を考えているなら、売り場ごとの規約を先に読んでください。手元にない商品の出品や仕入れ先からの直送が禁止されている売り場があります。この線引きは無在庫での販売が認められるかの記事で扱っています。

「いくら必要か」への答え

検索結果に並ぶ「他の人はこちらも質問」にも、この質問が出てきます。手続きの側から答えると、こうなります。

項目金額やめたら戻るか
開業届・青色申告承認申請書0円払っていない
特定商取引法に基づく表記0円払っていない
古物商許可(中古品を扱う場合)19,000円+書類の取得費戻らない
売り場(初期・月額・決済手数料)サービスによる解約できる
仕入れ自分で決める売れるまで戻らない

戻らないのは2行だけです。 古物商許可の手数料と、仕入れた在庫の代金。残りは0円か、解約で止められます。

この表の読み方は、金額の合計ではありません。最初の1周で、いくらまでなら失ってよいかを決めるのは仕入れの行だけということです。ほかの行は、やめる判断をしたときにほとんど残りません。物販という形そのものの全体像は物販とは何かの記事で扱っています。

よくある失敗

売り場を先に決める。 何を売るかが決まっていないと、料金プランのどれが安いかも計算できません。手順1が先です。

青色申告承認申請書を後回しにする。 開業届と同じ期限だと思って放置すると、1月16日以後に始めた場合は2ヶ月で締まります。初年度の控除が消えます。

特定商取引法に基づく表記を、他店からそのまま写す。 返品の可否と期間と送料負担は店ごとに違い、しかもこの3つは但し書きで省略できない項目です。写した内容と実際の運用が食い違うと、そこがトラブルになります。

中古品を扱うと決めてから許可を調べる。 申請にはURLの使用権限を疎明する資料が要る場合があり、店の準備と前後します。扱うかどうかを手順1で決めておけば、順番で詰まりません。

承諾を取らずにメール広告を送る。 オプトイン規制があり、承諾の記録は3年間保存する必要があります。

まとめ

ネットショップの開業で本当に順番が決まっているのは、売り場選びではありません。

何を売るかを売れた実績で決め、自分が特定商取引法の販売業者になることを確認し、表示する項目と省略できる項目を分け、開業届と青色申告承認申請書を期限の短いほうから出し、中古品を扱うなら19,000円を払って許可を取る。売り場を選ぶのは、その全部が済んだあとで構いません。

上位に並ぶ記事がこの順番で書かれていないのは、書いているのが売り場を売っている会社だからです。彼らの記事が間違っているわけではなく、答えていない部分があるだけです。その部分が、やめたときに戻ってこないお金と、逃すと取り返せない期限のあるところに集中しています。

よくある質問

ネットショップの廃業率は?

ネットショップに限定した廃業率の公的な統計は見つかりませんでした。この記事では出典のない割合を書きません。代わりに判断できるのは、何にいくら払い、そのうちいくらが戻らないかです。開業届と青色申告承認申請書の提出は無料で、売り場の契約は解約できます。戻らないのは、仕入れた在庫の代金と、古物商許可の手数料19,000円です。やめたときに失う金額を先に決めておけば、廃業率という数字がなくても判断できます。

ネットショップを開業するにはいくら必要ですか?

手続きそのものは無料です。個人事業の開業・廃業等届出書と青色申告承認申請書に手数料はありません。費用が発生するのは3か所です。中古品を扱うなら古物商許可の手数料19,000円と、住民票の写しや身分証明書の取得費。売り場には初期費用・月額費用・決済手数料の3つの組み合わせがあり、サービスによって何が0円かが違います。そして仕入れです。このうち戻らないのは許可の手数料と在庫の代金だけで、残りは止められます。

一番売れるネットショップは?

売れている店の名前を並べても、自分の店の判断材料にはなりません。業種も仕入れ力も集客の予算も違うからです。使えるのは、自分が扱おうとしている商品が実際に売れているかどうかという一点です。見るべきなのは出品価格ではなく、売れた価格と、その価格で売れる頻度です。国内の売り場で売るならその売り場の販売済みデータを、海外に売るなら売り先の国の実売データを見ます。

ネットショップの成功率は?

廃業率と同じく、ネットショップに限定した成功率の公的な統計は見つかりませんでした。数字の代わりに確認できることがあります。青色申告の承認を受けて複式簿記で記帳していれば、1年目の終わりに自分の売上と経費と利益が正確に出ます。白色のままだと、成功したかどうかの判定そのものができません。成功率を気にするより先に、判定できる状態を作るほうが早く答えが出ます。

開業届は開業から1ヶ月以内に出さないといけませんか?

所得税法第229条は、届出書の提出を「その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに」と定めています。国税庁の手続案内(A1-5)も同じ書き方です。1ヶ月以内と定められているのは第230条の給与等の支払をする事務所の開設等の届出で、これは人を雇って給与を払う場合の別の届出です。ただし、先に出しておく実務上の理由はあります。青色申告承認申請書の期限は別に定められていて、そちらのほうが短いからです。

個人でも特定商取引法に基づく表記は必要ですか?

必要です。特定商取引法ガイドは「業として営む」を「営利の意思を持って、反復継続して取引を行うこと」と説明し、この要件に該当すれば個人でも販売業者になると明記しています。一度だけ不要品を売る場合とは扱いが違います。ただし氏名・住所・電話番号については、請求があれば遅滞なく提供すると広告に表示し、実際に提供できる措置を講じていれば、広告上は省略できます(法第11条ただし書)。返品に関する事項は、この但し書きでも省略できません。