D2Cブランドとは:モールや卸との違いと、始めるべきでない場合
D2C(Direct to Consumer)とは、メーカーやブランドが自社で企画・製造した商品を、問屋や小売業者を介さずに、自社のECサイトで消費者に直接販売する仕組みです。 これはShopify 日本の解説記事(2024年7月14日付、2026年9月22日閲覧)の定義で、D2Cブランドとは、この形で売っているブランドを指します。
「D2C ブランド」で検索すると、成功事例を20社、24社と並べた記事が上位に並びます。並んでいるのは、ストアを作るサービスを売る会社の記事です。事例は読めても、自分がD2Cをやるべきかどうかは、そこには書かれていません。
この記事は、事例の一覧ではなく、D2Cという言葉の意味、モールや卸との違い、D2Cが要求するもの、そして日本のセラーがD2Cから始めるべきでない場合を整理します。ブランド名は、一次情報がD2Cと明記しているものだけを挙げます。
D2Cの定義:誰が間にいないか
D2Cという言葉の要点は「Direct」、つまり間に誰もいないことです。
Shopify 日本の記事は、従来のビジネスモデルとD2Cを次のように対比しています。従来のモデルでは、商品が消費者に届くまでの工程ごとに担当する企業が違います。メーカーが企画・製造・マーケティングを担当し、卸や小売が仕入れを担当し、店舗が販売を担当します。D2Cでは、企画、製造、マーケティング、サイト運営、消費者への配送までを、すべて1社が一貫して行います。
ここから、日本のセラーが最初に押さえておくべき区別が出てきます。
- 自社で企画・製造した商品を自社サイトで売る:D2Cブランド。
- 他社から仕入れた商品を自社サイトで売る:オンラインの小売店。自社サイトを持っていても、この定義ではD2Cではありません。
- 自社製品をモールで売る:メーカー直販ではあっても、間にモールがいるのでD2Cの典型ではありません。
言葉の使われ方は緩く、仕入れ型のShopifyストアを「D2C」と呼ぶ記事も多くあります。しかし、この区別は言葉の問題ではなく、自分の商品があるかどうかという、あとで説明する「始めるべきでない場合」の1つ目に直接つながります。
Shopifyというプラットフォームそのものが何であるかは、Shopifyとは何かの記事で扱っています。
モール、卸、D2C:3つの売り方を並べる
日本のセラーの基準点はモールです。Amazon.co.jpや楽天市場、メルカリで売ることに慣れていると、D2Cの違いは「自分のサイトがあるかどうか」に見えますが、本当の違いは別のところにあります。
| モール型(Amazon.co.jp、楽天市場など) | 卸(問屋・小売に卸す) | D2C(自社サイトで直販) | |
|---|---|---|---|
| 買い手を連れてくるのは | モール | 小売店 | 自分(広告、SNS、検索) |
| 顧客の情報を持つのは | モール(セラーには限られた範囲) | 小売店 | 自分 |
| ブランドの見せ方を決めるのは | モールのルールの中で自分 | 小売店 | 自分 |
| 価格を決めるのは | 自分(モールの競争の中で) | 卸値は自分、売価は小売店 | 自分 |
| 売れたときに払うもの | 販売手数料 | 卸値と売価の差(小売の取り分) | 決済手数料 |
| 売れなくてもかかるもの | プランによる月額(かからない場合も) | 在庫 | サイトの月額料金、広告費、在庫 |
この表で決定的なのは1行目です。モールでは買い手を連れてくるのがモールの仕事で、その対価が販売手数料です。 D2Cでは、その仕事を自分でやります。Shopify 日本の記事も、D2Cのデメリットの1つ目に「大手ECモールへの出店と比べると認知度と露出度が劣り、集客に時間がかかる可能性がある」ことを挙げ、SNSや広告で自力で集客する必要があり、その運用の人件費と広告費がかかると書いています。
言い換えると、D2Cは「モールの仕事を自分でやる」という約束です。約束の対価として、顧客データと、ブランドの表現と、中間マージンのない価格構造を手に入れます。
D2Cのメリット:Shopifyの記事が挙げる4つ
Shopify 日本の記事は、D2Cのメリットを4つ挙げています。この記事はそれを言い換えず、そのまま整理します。
- 作り手の想いを顧客に直接伝えられる。 間に小売業者が入ると、契約によって伝えられる情報に制限がかかることがあります。D2Cではその制約がなく、開発のきっかけから裏話まで、自分の方法で伝えられます。
- 顧客データをもとに商品やサイトを改善できる。 顧客の属性、購入履歴、サイト内での動きを直接入手でき、フィードバックを商品に速く反映できます。
- 自由度が高く、ブランドイメージを作りやすい。 サイトのデザイン、SNSの投稿、キャンペーンの方法に制限がなく、モールではできない表現ができます。
- 収益化しやすい。 中間業者がいないので中間マージンと流通コストを削減でき、価格設定や製造コストの判断を自社で行えます。
4つに共通するのは、すべて「自分が持つ」ことの裏返しだということです。データを持てるのは自分で集客したからで、ブランドを自由に作れるのはモールの売り場を借りていないからです。メリットは、次に見る「要求されるもの」と表裏一体です。
D2Cが要求する3つのもの
D2Cが約束の形態だとすれば、約束を果たすために必要なものは3つに絞れます。
1. 集客:買い手を自分で連れてくる
自社サイトには、開いただけでは誰も来ません。検索、SNS、広告のどれかで買い手を連れてくる必要があり、多くの場合それは広告費として表れます。
日本のストアが実際にどうしているかは、数字で見られます。ZIK Analyticsが運用するZIK Marketplace Index(ZMI)のShopifyデータで、国が日本として登録されているストアを2026年9月21日時点で集計したところ、直近30日に売れた653店のうち56.7%がMeta広告(FacebookとInstagram)を出していました。TikTok広告は0.3%、Pinterest広告は1.5%です。売れている日本のShopifyストアの半分以上が、集客を広告で買っています。
これは、D2Cを検討する日本のセラーにとって2つのことを意味します。集客の主な手段はMeta広告になる可能性が高いこと、そして広告費を払っても売れる商品と利益率が必要だということです。Meta広告の仕組みと費用の考え方はMeta広告とは何かの記事で扱っています。
2. ブランド:語る価値のある商品
D2Cのメリットの1つ目と3つ目(想いを伝える、ブランドを作る)は、伝える価値のある話がある商品を前提にしています。Shopify 日本の記事が挙げる事例に共通しているのは、小柄な女性向けの服、単一農園の煎茶、チーズケーキの専門店といった、なぜこの商品を作ったのかを語れる商品であることです。
仕入れた商品にはこの話がありません。だから仕入れ型のストアは、D2Cの定義から外れるだけでなく、D2Cの強みの半分を最初から使えません。仕入れ型のストアの勝ち筋は別にあり、それは需要のある商品を早く見つけることです。この記事の最後で扱います。
3. 利益率:広告費と固定費を吸収できること
モールでは、売れたときだけ販売手数料を払えば済みます。D2Cでは、売れても売れなくてもサイトの月額料金がかかり、集客のために広告費がかかります。Shopify 日本の記事も、デメリットの2つ目として初期投資と運用の人件費を挙げています。
したがって、商品1つあたりの粗利が、広告費と固定費の配分を引いても残る必要があります。Shopifyの料金の構造(月額のプラン料金と販売ごとのカード手数料)と、注文数によって1件あたりの負担がどう変わるかは、Shopifyの料金と手数料の記事で、2026年9月21日時点の公式料金で計算しています。薄利多売の商品でD2Cを始めると、広告費が粗利を上回る状態が最初から続きます。
日本のセラーがD2Cから始めるべきでない4つの場合
D2Cは強い形態ですが、順番を間違えると最初の数か月で資金が尽きます。次の4つに当てはまるなら、D2Cから始めないほうが失敗が少なくなります。
- 自分の商品がない。 企画・製造した商品がなく、仕入れた商品を売るつもりなら、それはD2Cではなく小売です。自社サイトは持てますが、ブランドの話も顧客データの優位もない状態で、集客の費用だけを負うことになります。先に需要のある商品を見つけ、売れることを確かめてからサイトを持つほうが順番として正しい。
- 集客の予算と技術がない。 売れている日本のShopifyストアの56.7%が広告を出しているという数字は、広告なしで集客できる店が少数派だということです。広告費を出す余裕がなく、SNSで人を集めた経験もないなら、買い手を連れてきてくれるモールのほうが、最初の売上を作るには速い。
- 広告費と固定費を吸収できる利益率がない。 粗利が薄い商品は、モールの販売手数料は払えても、D2Cの広告費と月額料金は払えません。利益率を上げられない商品でD2Cを始めるのは、赤字の構造を先に作ることになります。
- モールのほうが最初の一歩として合理的。 需要があるかどうか分からない商品は、買い手がすでにいるモールで試すほうが、少ない費用で答えが出ます。売れることが分かってから自社サイトに移す、あるいは両方を並行するのは、D2Cブランドとして紹介される企業もたどっている順番です。
逆に言えば、自分の商品があり、語れる理由があり、広告費を払っても残る利益率があり、需要を確かめる方法があるなら、D2Cは検討に値します。
海外に売るD2C、海外に売るマーケットプレイス
D2Cは国内向けとは限りません。ZMIの同じ集計では、日本のShopifyストア912店のうち87店が英語のストアで、20店が米ドル建てで販売していました。少数派ですが、自社サイトから海外に直接売る店は存在します。
海外向けのD2Cには、国内向けにない費用と手間(送料、関税、為替、返品)が乗ります。その全体像は越境ECの記事で扱っています。
自分の商品を持たないセラーが海外に売るなら、道は別にあります。海外の買い手がすでにいるマーケットプレイス、つまりeBayへの輸出です。eBayには日本国内向けの市場がないので、日本から出品することは常に海外に売ることになり、買い手を集めるのはeBayの仕事です。これは、この記事で言うD2Cではなく、モール型の海外版です。どちらが自分に合うかは、自分の商品があるかどうかでほぼ決まります。
既存のD2Cストアを見て学ぶ
D2Cを検討するなら、事例記事を読むより、実際に売れている日本のストアを見るほうが学べることが多い。どんな商品を、いくらで、どのくらいの品数で、どの広告チャネルを使って売っているかは、ストア自体を見れば分かります。
日本のShopifyストア全体の構成(912店、416,660点の商品、品数の分布、広告チャネルの割合)は日本のShopifyストアのデータレポートにまとめています。個別のストアを条件で探すなら、ZIK AnalyticsのShopify Store Finderで、国を日本にして、通貨、言語、広告チャネル(Meta、TikTok、Pinterest)、ストアの種類で絞り込めます。アプリの画面は英語ですが、操作は国と条件を選ぶだけです。
見るときの観点は3つです。品数(少数の自社製品に絞っているか、幅広く仕入れているか)、広告チャネル(Meta広告を出しているか)、価格帯(広告費を払っても残る価格か)。この3つが、上で見た「D2Cが要求する3つのもの」に対応しています。
まとめ
D2Cブランドとは、自社で企画・製造した商品を、問屋や小売を介さずに自社サイトで直接売るブランドです。モールとの本当の違いは、買い手を連れてくる仕事を自分でやることで、その対価として顧客データ、ブランドの表現、中間マージンのない価格構造を手に入れます。
要求されるのは集客、ブランド、利益率の3つです。日本のShopifyストアでは、売れている店の56.7%が広告で集客しています(ZMI、2026年9月21日時点)。自分の商品がない、集客の予算がない、利益率が薄い、モールで試すほうが合理的、のどれかに当てはまるなら、D2Cから始めるべきではありません。
D2Cは「モールの仕事を自分でやる」という約束です。約束を果たせる商品と資金があるなら強く、そうでなければ、モールかeBay輸出で需要を確かめてから移るほうが、失敗が少なくなります。
よくある質問
D2Cブランドとはどういう意味ですか。
D2Cは「Direct to Consumer」の略で、メーカーやブランドが自社で企画・製造した商品を、問屋や小売業者などを介さずに、自社のECサイトで消費者に直接販売する仕組みです。Shopify 日本の解説記事(2024年7月14日付)はこう定義し、従来のモデルでは企画・製造、卸、店舗販売を別々の企業が担うのに対して、D2Cでは企画から配送までを1社が一貫して行うと説明しています。D2Cブランドは、この形で売るブランドのことです。
D2Cとモール出店の違いは何ですか。
買い手を誰が連れてくるかと、顧客を誰が持つかが違います。モール(Amazon.co.jp、楽天市場など)では、モールが買い手を連れてきて、売れたときに販売手数料を取ります。顧客データと商品の見せ方はモールのルールの中に収まります。D2Cでは自社サイトに買い手を自分で集める必要があり、その代わりに顧客の情報、ブランドの表現、価格の決め方を自分が持ちます。売れなくてもかかる固定費と、集客のための広告費が、D2C側の代償です。
仕入れた商品を自分のShopifyストアで売るのはD2Cですか。
Shopify 日本の記事の定義では違います。D2Cは「自社で企画・製造した商品」を直接販売する仕組みなので、他社の商品を仕入れて売るストアは、自社サイトを持っていてもD2Cブランドではなく、小売(オンラインの小売店)です。ただし、仕組みとして必要なもの(自分で集客すること、固定費を払うこと)はほぼ同じなので、この記事の「始めるべきでない場合」は仕入れ型のストアにも当てはまります。
D2Cで有名な企業は?
この記事では、一次情報が「D2C」と明記しているブランドだけを挙げます。Shopify 日本の解説記事は、日本のD2Cの成功事例としてCOHINA、RiLi、Mr. CHEESECAKE、SOÉJU、BASE FOOD、土屋鞄製造所、objcts.io、HushTug、煎茶堂東京を、海外の例としてAllbirdsを挙げています。各ブランドが実際にどう売っているかは、それぞれの公式サイトで確認してください。
D2Cブランドで日本にあるアパレルブランドは?
Shopify 日本の解説記事がアパレルの事例として挙げているのは、小柄な女性向けのCOHINA、顧客とのコミュニケーションから商品を作るRiLi、パーソナルスタイリングから生まれたSOÉJUです。この記事は他社の一覧記事からブランド名を引用していません。一覧が必要なら、各ブランドが自社サイトで自社製品を直接販売しているかを、その公式サイトで確かめてください。
D2Cブランドを成功させた事例は?
事例の一覧はこの記事の目的ではありません。Shopify 日本の記事に挙げられた事例に共通するのは、作り手の想いを直接伝えること、顧客のフィードバックを商品に反映すること、自社サイトでブランドの世界観を作ることの3点で、これはD2Cのメリットとして同じ記事が挙げている項目そのものです。日本のShopifyストア全体がどんな店で構成され、どのくらいが広告を出しているかは、日本のShopifyストアのデータレポートで数字として見られます。